「じぶんのまちをじぶんのことに」を理念とし、遊休不動産と呼ばれる空き家・空きビルなどのリノベーションプラン事業を展開している「株式会社新潟家守舎」の代表取締役小林紘大さん(以下、コウダイさん)。
小林紘大 Kodai Kobayashi
1987年新潟市生まれ。新潟大学工学部建設学科を卒業後、新潟市内の工務店に就職。設計から営業、広報まで幅広い業務を担当する。その後、2019年2月より「コウダイ企画室。」としてフリーランスで独立。新潟県内でリノベーションやまちづくりに積極的に取り組む。2020年11月には遊休不動産活用をテーマとした株式会社新潟家守舎を設立。「楽しい暮らしは自分でつくる」をモットーに、場づくりに関して建築というハードと、暮らしのコンテンツというソフト、両面から手がけている。
このコウダイさん、プロフィールを見ていただいて分かるように建築をバリバリやられているお方。
しかし、「全日本茶豆サミット」というイベントを主催したり、「新潟市100人カイギ」のキュレーター、「新潟コメジルシプロジェクト」のファシリテーターを務めるなど、建築以外の活動も活発に行われています。その活動の背景には、どんな意図があるのでしょうか?
ということで、建築だけにとらわれずにさまざまな活動を行われているコウダイさんの働き方について、過去から現在をなぞりつつ詳しく聞いてきました。また、コウダイさんのように人脈を広げるにはどうしたらいいの?今後は何をしていきたいと思っているの?など、気になる質問もぶつけてきましたよ。
コウダイさんのことは一方的に存じ上げていたので、今回お会いできてとても嬉しいです~!今日はよろしくお願いいたします。
こちらこそ!僕色々関わっているプロジェクトは多いのですが、それをうまく文章にしてまとめるのが苦手なので、セナポンさんの方で分かりやすくしていただけると助かります(笑)
よろしくお願いしますー!
INDEX
幼少期からモノづくりが大好きだった。将来の目標は自分の工務店を持つこと
まず、コウダイさんの幼少期について教えてください!
はい。生まれは新潟市西区(旧黒崎町)で、実家は祖父の代から続く造船所を経営していました。祖父が船を作っているところを見て育ったからか、昔からモノ作り……というか、自分のアイデアを形にして、誰かが喜んでくれるということがすごく好きだったんです。その最上級が建築だ!と思って、高校も新潟工業高校建築科に行きました。
なるほど~。
そのまま大学も新潟大学工学部に通って、建築を学ばれたんですよね。
そうです。
・建築の課題
・マクドナルドでのアルバイト
・韓国アイドル
のことばかり考えていた大学生活でした(笑)
その他にもサークルを立ち上げたり、イベントを開いたり……。結構活発な方だったと思います。
大学卒業後は新潟の地域工務店(工事全体に責任を持ち、工事に関わる職人の手配や管理をする会社。地域密着型で営業を行なっているところが多い。)に就職されますよね。どうして工務店を選ばれたんですか?
お客様の喜ぶ声が直接聞けるBtoCビジネスがいいなと思っていたからです。また、就活の際は社員10人以下の企業に絞っていました。将来的には自分の工務店を持ちたかったので、現場仕事から設計、営業に至るまで全部の仕事も経験しておきたかったんですよね。
おお~!入りたい企業がすごく具体的に決まっている……!そして、学生の頃から将来は自分の工務店を持ちたいと思っていたんですね。
そうです!就職は将来自分が起業するためにスキルを蓄える場所と思っていたので、企業に対してもかなり強気の姿勢でした。面接で「御社はどのようなステップを踏んで、僕をキャリアアップさせてくれるんですか?」とか聞いたり……。今考えると本当に調子こいてたし、恥ずかしいなと思うんですが(笑)
でも幸いなことに、僕の質問にもしっかり答え、かつ採用してくれるという工務店さんに巡り合えたので、最初の就職をさせていただきました。
一番最初に就職した工務店では、現場監督を3年されていたそう。家ってどのように作られるの?という基本的な知識や、家を1軒建てるのにかかる時間・値段などの感覚が養われたといいます。また職人さんたちとコミュニケーションを取るなかで、現場の声も知ることができました。コウダイさんとってすごく大切な経験だったそうです。
その後、学生時代から面識があった社長さんがいる、少しベンチャー気質の工務店に転職しました。そこでは設計、営業、広報などの役割を担当し、約5年半働かせていただきましたね。
結果的に、現場、設計、営業、広報など、ほぼ全てのポジションをサラリーマン時代の8年半で経験することができたコウダイさん。ご自身が就活生だったころに描いていたビジョンは見事実現されました。
自分のやりたいことは工務店なのか?フリーランスとして独立後、株式会社新潟家守舎立ち上げ
その後2019年の2月に「コウダイ企画室」としてフリーランスで独立されます。
ですが、コウダイ企画室として行っていた主な仕事は、まちづくり。顧客が望んだ家を建てる工務店の仕事とは異なります。
コウダイ企画室としての独立は、学生時代から思い描いていた「自分の工務店を持ちたい」というビジョンとは少し違いますよね。将来についてなにか考えが変わるきっかけがあったのでしょうか?
ちょうどフリーランスとして独立する1年くらい前、ちょっと思い悩んだ時期があったんです。1級建築士の受験に失敗したり、自分より上手くてセンスのある設計士にたくさん出会ったり……。
あと、工務店って結局請負業なので、クライアントからお金を預かって、工事者に発注して、残りが利益になるという仕組みですよね。ということは、たくさん発注をいただければいただけるほど利益が出る。しかし、そうすると1人に対してあまり時間がかけられなくなります。それってユーザーにとってはあんまり良くないよね、ならば僕はこのままずっと住宅の建築設計士として働いていていいのだろうか……?とかぐるぐる考えてしまって。
そんなときに「ぼくらのリノベーションまちづくり」という本を知り、リノベーションスクールに出会ったというコウダイさん。そこでさまざまなプロジェクトを知ったり、多くの人の意見を聞くなかで、遊休不動産を活用し、面白い人材を集めて“楽しいまちを自分でつくる”ことが、よりたくさんの方の暮らしを良くすることにつながるのではないかと考え始めたといいます。
その考えのもと立ち上げたコウダイ企画室では、「『楽しい』をみんなでつくる」をモットーに、人との繋がりを大切にしながら「みんなが楽しめる場づくり」を展開しつづけました。
中央区にある賃貸集合住宅「グリーンホームズ新潟」。コウダイさんを中心に入居者交流イベント数多く開催し、入居率が75%から97%に上昇。
茶豆をフックにまちに関わる当事者(プレイヤー)を増やすことを目的としたイベント「全日本茶豆サミット」を主催。2018年から2年連続でふるさと村にて行われた。
そして、2020年11月には、不動産オーナーや行政が所有する遊休不動産を対象にリノベーションプラン事業を行う株式会社新潟家守舎を設立されます。
新潟家守舎について、読み方は「やもりしゃ」で合ってますかね?(笑)
どうしてこのような名前を付けたのでしょうか?
「やもりしゃ」で合ってます!(笑)
そして、家守とは江戸時代の職業名で、地主・家主に代わって土地や家屋を管理する人のこと。彼らは地代・店賃 (たなちん)の取り立てから、敷地内で起こったトラブルの解決、ビジネスを始めたい人の相談に乗るなど、その土地を円滑に動かしていく役割を担っていました。
なんだか公務員的な役割ですが、家守は民間。こんな感じで、民間としてビジネスで街づくりが出来たらめっちゃいいじゃん!僕も現代版の家守になりたい!と思って「株式会社新潟家守舎」という名前を付けました。
なるほど!江戸時代からそんな職業があったんですね。
行っている事業としては 遊休不動産を対象としたリノベーションプラン事業とのことですが、遊休不動産ってなんなんですか?
遊休不動産とは、空き家、空き店舗、空きビル、空き空間などの、今はもう企業活動にほとんど使用されていない不動産のことを言います。
古い建築物を改修するのって、新しい建築物を建てるより早いし、かかる費用も少ないんです。今の時代、初期投資額をいかに早く回収できるかが顧客にとって重要だと思うので、ここに目を付けました。
そんな新潟家守舎さんは、現在3つの事業を展開されています。
①コウダイ企画室
工務店や設計事務所のコンサルティング/経営支援/営業支援/広報支援/設計サポート/現場管理などを行う住宅プロデュース業
②AMINARI(アミナリ)
コウダイさんの持つ広い人脈を生かして各建築物に合わせたキャスティングを行う、遊休不動産建築プロデュースサービス
③タノクラ
コウダイさんご自身が楽しそう!と思った場づくりを遊休不動産を通して形にするサービス
「AMINARI」「タノクラ」に関しては、セナポンでも1つずつ事例記事を執筆しています。事業内容について詳しく知りたい人はそちらの記事をチェックしてみてくださいね。
遊休不動産を取り扱う会社といいつつ、「コウダイ企画室」事業では業務委託で新築の物件にも携わったりしています。決して遊休不動産関係の提案しかできないということではありませんよ!
・建築や住宅に関する分野で、経営・営業・広報などにお悩みを持つ企業さん
・自分が持っている不動産を有効活用して若者を応援したい、街に新たな息吹をもたらしたいという思いのある不動産オーナーさん
・コウダイさんが関わっている建築物が好きで、こんな建築物を建てたいと思っている方
こんな人は、株式会社新潟家守舎さんまでぜひぜひご連絡ください!
事業成功のために育むべきは“人を集めることができる力”だった
2つ目の事業「AMINARI(アミナリ)」では、コウダイさんの持つ人脈を生かしてビジネスを展開されていますよね。初めの文章に書いたように、コウダイさんって建築だけでなく、さまざまな面白いプロジェクトに関わっていらっしゃいます。
新潟で、「今これアツいな~!」と思うような企画や、ご活躍されている人の側にはいつもコウダイさんがいるな……って思っているんですが、そういう繋がり・人脈などってどうやって広げればいいんでしょう?(笑)
松浜Rプロジェクトのメンバーと 本町8banリノベーション運営メンバーと
そういう風に思っていただけているなんて嬉しいです!
ではまず、僕がどうして人脈を広げようと思ったかについてお話しますね。
例えば、空きビルの1フロアが空いていて、家賃が1ヶ月50万円だとします。でも、そんなところはもう誰も借りない。
うん、そうですよね。
だけども、それを月5万円×10人という風にすれば人が集まるかもしれないですよね?
はい、可能性は高まると思います!
そして、その金額を月6万円にして、10人全員が3年間借りる契約にしたら3年で360万円の売り上げが出ます。それを見越して360万円分の内装をする。そうしたら、4年後からちゃんと収入が入ってくるようになります。
……伝わってますか?
はい、大丈夫です!ギリギリ分かります!(笑)
良かったです(笑)
このような感じで、空き家活用の方法を考えたり、その10人を集めてきちんとビジネスとして成立させることが、 遊休不動産を扱う建築業を行うにあたって、今求められていることなんですね。
なるほど~!
そうすると、いかに人を集められるかが事業成功のカギというわけですね?
その通りです!この事業で成功するために、まず育むべき力は「人を集めることができる力」だったんです。ちゃんと10人集まらなかったら、初期投資の回収がどんどん遅くなっていきますから。
このような理由から、人を集められるような人間になろう!と決意したというコウダイさん。独立前、遊休不動産を扱う事業を行おうと考え始めていたときから、「『新潟にいる面白い人は全員知っている』という状況に3年でなる」という目標を定め、さまざまな活動を始めたといいます。
結果として、現在関わっているプロジェクトはなんと35個、持っている名刺は14枚。たくさんの新潟の面白い企画・人と繋がれたことで、その人脈を生かしたキャスティング業務が事業の1つになっています。
すごい……!人との繋がりを広げるために、具体的にはどのような活動をしていたんですか?
ありとあらゆる場に突撃してたのと、自分でイベントを主催してました。学生時代からそうなんですが、僕はなにかあるごとに「イベントをやる」という習性を持っているので(笑)
また、繋がりを作るっていってもただ飲み会などで話すだけじゃなくて、イベントなどを通して一緒に作業をするという経験をしたり、お仕事を通して仲間にするっていうことは意識してましたね。
気になったり、繋がりたいと思った人に対しては「仕事を発注する」というアプローチをしていたというコウダイさん。 一緒に何かを作り上げるということは、強い仲間感・連帯感を生みます。 それを繰り返すことで、さまざまな人と広く、深く繋がっていったそうです。
そして、仕事を発注するときにただ「外注する」という形ではなくて、最近は「普段やってないことにもチャレンジしてみない?」ってお願いをすることも心がけています。
例えば、主に住宅のデザインをされている人に「カフェの設計もしてみませんか?」とか、ロゴをお願いしたことがある人に「チラシも作れますか?」とか。その人にとってキャリアアップになるような繋がり方が出来たらいいなあと思っていますね。
しかし、信頼できる相手でないと、このような提案をすることも難しい。そのため、日々のコミュニケーションの中で「今はこういう仕事をしているけど、本当は何をしたいの?」などとヒアリングをするように心がけたり、「こういうことやってみたい?」と聞いたときの目のキラつきは見逃さないようにしているといいます。
このように、キャスティングやマネジメントの能力を持つことで、唯一無二の建築屋さんになれるのではないかとコウダイさんは語ります。
“100万人に1人の存在”になって、更に価値ある存在に
最後に漠然とした質問で申し訳ないんですが、コウダイさん、今後こういう活動をしていきたいな~とか考えていることはありますか?
建築に関わる者としては、「長く愛せる建築ってなんだろう」っていうことはずっと考え続けていきたいですね。今僕がやっている遊休不動産の活用などもそうなんですが、今のところ出ている答えは、プロセスメイキングです。
たくさんの人が関わったり、ストーリーのある素材を作ったり、作る過程に愛を込めることが、長く愛される建築物になる秘訣だなと思っています。
また、このプロセスを大切にすることはもちろん、それを作り手の方からお客さま、更にはもっと多くの人にまで発信していく。その積み重ねが、長く愛される建築物、しいては長く愛されるまちをつくることに繋がるのかなって思っています。
あとは、この現代社会の中でもっと価値ある存在になるために、僕が尊敬している藤原和博さんがおっしゃっている「100万人に1人の存在」になるための新しい活動もしていきたいと思っています。
100万人に1人とはオリンピック金メダル級の希少性を持っている人のこと。ですが、彼らのように1つの分野で100万人に1人の存在になることは難しい。だけれど、100人に1人の“異なる”スキルを3つ持っていて、それをかけ合わせれば、100万人に1人の存在になることが可能なんです。
ほほ~!
100×100×100=100万というわけですね。
そうです!そして、100人に1人の存在になるには、ひとつのことを1万時間(=平日8時間稼働で5年)やることが必要なんですって。
それでいうと僕は、
・現場監督として住宅を作る
・工務店での営業・広報やイベント主催・キャスティングなどを通して、人と接したり情報発信をする
ことをそれぞれ1万時間くらいはやっているので、100人に1人のスキルが2つ揃っている状態。
そして今は、残りの1つをなににするか探している途中なんです。
今のところ、建築をベースとして、ソフト面(人材や技術、意識、情報などの“無形の要素”)とハード面(施設や設備、機器、道具などの“形ある要素”)に関するスキルを持っているコウダイさん。最後の1手はみんなが想像できないような要素にしたいと語ります。
ここで3つ目を不動産とかにしたら、あんまり面白くないじゃないですか(笑)
3つの要素を組み合わせて、より面白いものを生み出していくためにも、かなり飛躍した要素を取り入れたいんですよね。教育、福祉、ITとか。宇宙とかも面白そうでいいなあ~。
笑顔で目を輝かせながら、将来について語って下さったコウダイさん。これからどんな面白い活動を始めるのか、今後も目が離せませんね。
まとめ
という訳で今回は、株式会社新潟家守舎の代表取締役小林 紘大さんにお話を伺いました。
常にご自身の成長に対して貪欲に、どんどん新しい方向へと進んで行っているコウダイさん。このような方を見ると、「私も頑張らなきゃ!」とモチベーションが上がりますし、背すじがピッと伸びますね。
また、気になるコウダイさんのルーツや、人との繋がりづくりに関してもお話を聞くことができ、非常に嬉しかったです。特に繋がりに関する話は、今後セナポンを通して色々なコミュニティを作りたいと思っている私にとって、かなり参考になった!取材している側なのに、今回もたくさん勉強をさせていただきました(笑)
ということでコウダイさん、お忙しい中お話を聞かせて下さり誠にありがとうございました~!
写真撮影:小林千裕
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