【陰キャ日記】戦慄の飲み会ミステリーサークル事件

【陰キャ日記】戦慄の飲み会ミステリーサークル事件

2021/1/28

超能力、心霊現象、未確認飛行物体(UFO)……等々、いわゆる超常現象と呼ばれるものが世の中にはいくつかある。皆さんはその存在を信じているだろうか?

僕は信じている。いや、正確には信じるようになった。何故ならば実際にこの目で見てしまったからだ。そりゃもう信じない訳にはいかない。

僕が目にしてしまった超常現象。それは、ミステリーサークルだ。

一時世界を騒がせ、様々な議論や憶測を生んだミステリーサークル。現在では人為的に作られたものであるとの結論に落ち着いているが、その全てが本当に人工物と断定してしまって良いのだろうか。

事実、僕の目撃したミステリーサークルは誰の手にもよらず、ひとりでにその姿を現した。見えざる何者かの手によって。

今回はそのことについて語らせていただきたい。

■孤立

最初に異変に気が付いたのはいつのことだったか。確か2014年~2015年頃のことだったと思う。

その頃の僕は「人見知りっ子→いじめられっ子→コミュ障」と順調にステップアップを果たし、押しも押されもせぬ立派な陰キャ大学生になっていた。

しかし、自分の弱さを認め受け入れられるほど、その頃の僕は大人ではなかった。晴れて大学生となったからには何かが変わるはずだと、さしたる努力もせず儚い期待にすがるばかりだった。

あれは何かしらの催しの打ち上げだったと記憶している。大学前の通りにある学生御用達の居酒屋で飲み会が開催されていた。

熱狂とアルコール臭が渦巻く只中にあって、僕は1人ぼっちだった。話す相手がいなかったからだ。

右を向く。このような光景が広がっている。

左を向く。同様の光景が広がっている。

見えるのは人の背中と後頭部。精々僕のいる側と反対の方向を向く横顔だ。

僕は完全に人の輪から漏れていた。

それでも最初は。会が始まった最初の頃は。隣の島で繰り広げられる会話に食らいつこうとした。「俺も! 俺もその話聞いてるから! 聞いてるからねえええ!!」というのをアピールするため、大げさに相槌をうったり笑ったりした。

しかし駄目だった。どんなに頑張っても傍からは「輪から漏れた奴」にしか見えない。あの背中と肘を乗り越え、輪に割って入るようなことはできなかった。気づけば僕は「大きな独り言で笑っているいかれポンチ」になってしまっていた。

心が折れた。

ふと目をやると、手を付けられずに余った料理がある。他のテーブルと見比べても、明らかに余っていた。ほとんど僕しか手をつけていなかったからだ。

会話に混ざれない僕に残された最後の選択肢はとにかく食べて飲むことだった。冷えたから揚げやチャーハンを小皿に取り分け、黙々と食べ続ける……。

ふと気が付いた。

周りに、人がいないのだ。

■怪異発生

手を伸ばせば届くはずの距離にある喧騒が、やけに遠く聞こえた。別の世界の出来事であるかのようだった。このどんちゃん騒ぎの中にあって静寂を感じるとは不思議なものだ。

その空間は、僕を中心にしてぐるりと、人1人分の間隔をもって存在していた。世界から僕だけを切り取ったかのような断絶であった。

これは、そう。まさしくミステリーサークルとしか呼びようのないものだった。

一般にミステリーサークルと言えば、田畑にある稲などの穀物が倒されて作られるものとされている。しかし、この時僕の前に出現したミステリーサークルはあろうことか人間によって形作られていた。そのことが、事態の異常性を示していた。

座布団一枚跨げば越えられる裂け目である。だが、その境を乗り越え、サークルの中から脱出する勇気は、僕にはなかった。恐ろしかったのだ。

何か、人ならざる者の意思を感じる。かの有名なアダム・スミスが述べた「神の見えざる手」とは、経済市場全体に関わる動きを指す語ではなかったか。キリスト教が言う神の手は、人々を終末から救うためのものではなかったのか。

僕はこの時、世界の真理の一端に触れていたのかもしれない。

■経過

後に僕は同じ飲み会に参加していた人達に尋ねたことがある。「そういえばあの飲み会の時、人が割れてミステリーサークルのようなものが生まれていたよね。気付いていたかい?」と。

答えは毎回決まって「君は何を言っているんだい?」であった。

僕にしか見えない。いや正しくは、他の人達はそれを認識する”資格”を持たないのだろう。

あれからも、ミステリーサークルは僕の前に現れたり現れなかったりした。そして現れるとき、決まって僕は独りぼっちだった。

思うに、真のミステリーサークルとは(人工物ではない、人知を超えた存在によって生み出されたという意味での)、一定規模の集団の中で孤立している人間の前にしか、その姿を現さないのではないだろうか。

陰キャ根暗クソぼっちである僕等は、世の中の大多数の人々と同じ景色を見ることもできないし、同じ体験、想いを共有することもない。しかし、そんな迫害されるマイノリティであるからこそ見ることのできる景色があるのだ。

ミステリーサークルとは、正しく僕達コミュ障へ向けて神が差し伸べた救いの輪である。

喧騒の中に生まれたミステリーサークル。その輪の中でしか流れない時間と静寂。それを味わいながら熱燗でもあおるのも、中々オツなものではないか。

ぼっちも意外と悪いもんじゃない。

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